終活 ひきこもりの息子を自立させるまでは死ねない

デジカメの編集画面にいつも笑顔の息子が現れる。「がんばれよ!」と小さく声に出してみる。

わたしはここに居ますよ

以前食べたあのビザおいしかったな、もう一度#ピザが食べたいなぁ、と思っても

一人住まいで便利なスマホも持っていないし、電話番号もわからない、

そんな高齢者がいる。

家族が今度来てくれるのはいつになるのかなぁ。

奈良県橿原市で便利屋を営んでいる。1人親方で、現場を人に任せたくなかったので業務を大きくしなかった。

なんでも一人でやらなければならない。

サラリーマン時代に営業活動が苦手だった。お客先の敷居が高く脂汗をかきながらの毎日だった。

便利屋に転じ心に誓ったことが2つある。1つはネクタイをしないこと。2つ目は営業活動をしないことである。

開業指導のアンチョコには"半径500メートル以内のお宅を1軒ずつ御用聞き訪問しなさい"とあったが実行しなかった。

それでは便利屋が"ここに居ますよ"ということをわかってもらえないので考えた。

B5サイズの小さなチラシを作り1軒1軒ポスティングすることである。

夏の朝、涼しいうちにと5時過ぎに家を出て配布目的地まで自転車で行き配り始める。

郵便受けに入れるとき、チラシの1枚1枚に「がんばって営業して来いよ」と言い聞かせて3つ折りした表面の「便利屋」の文字が未来のお客様に見えるように差し込んでいく。

先に新聞が入っているときには束のすき間に「ちょっと失礼」と新聞広告に便乗させてもらう。

その朝は行くところ行くところ同じチラシが郵便受けに挟んであった。ちょっと顔をのぞかせている絵柄を見るとピザ屋さんのらしかった。

"こんなごみ入れるな ! "と張り札のしてあるお宅もある。突然犬にほえられるときもある。勝手にチラシ撒くと警察に言うぞ !と電話が掛かってきたマンションもあったなぁ。

そんな恐怖体験をしながら"わたしはここに居ますよ"との思いを込めてチラシを配っていく。

ほんとそのときだけなのである。要るときに目の前にチラシが無ければお客様は反応してくださらない。

同地区のチラシ配り2日目にピザチラシの配り主とすれ違った。

お互い軽く会釈をして苦労をねぎらいさっと離れて次のお宅の玄関に向かう。

朝、起きて郵便受けを開けた一人住まい高齢者さんがピザのチラシを手に取って

"今日はお昼に電話してみようかしら"