終活 ひきこもりの息子を自立させるまでは死ねない

デジカメの編集画面にいつも笑顔の息子が現れる。「がんばれよ!」と小さく声に出してみる。

アルコール依存症・閉鎖病棟からの手紙ー12ー


「腹立ち」 相手の悩みへの理解が大切

「アルコール依存症者が完全に断酒するのは、1千人に1人と言われています」  

このような文章にぶち当たると正直ぞっとします。反面、その1千人中の1人に絶対にな ってやるといった勇猛心もわいてきす。

風邪で体がだるくてしかたありません。せきは出る、鼻水は垂れるで、気分は最悪です。 しかし、何くそっ!という気概も心の奥に芽生えています。予定どおり朝食前の体操も 始めました。新館往復の散歩も、徐々に距離を増やしていくつもりです。  

1階に移って少し自由になったのか、新しい発見をしました。7時の朝食搬入に合わせ て、病棟正面のドアの鍵が当直の看護人によって開けられるのです。少しくらいなら外 へ出れます。  

運動靴が届いたら3月から食事前に15分ほど軽いジョギングでも始めようかと思 っています。体力の回復が健康への自信になります。健全な心の復活が、痛みを忘れるた めの酒から、断酒へと発展していく可能を呼び起こすのです。  

来週1度、橿原市の断酒会へ顔を出してみようかと思案しています。倒れても気が狂っ てもいいつもりでバスに乗ってみます。死ぬ気で(死んでもいいとあきらめて)酒を口 ヘ流し込んでいたのですから、死ぬ気で酒を断ちます。

病院や先輩の敷いてくれたレールに沿ってみて、その後、自分に合った断酒の方法を求 めて行きたいと考えています。少し長い目で見ていてください。

朝の電話でも言いましたが、「様子見に行く」という第3者的な態度ではなく、しっか りと手続きを開始してください。忙しいのでしょうが市役所の福祉課を訪ねてみてくだ さい。どこも込んでいるという話なので体調と相談の上、電話で時間の確認を取ってか ら行ってください。急ぎません。

できたら革新系の市会議員と連絡をつけて相談してみてください。西成のアンコがアド バイスしてくれています。「福祉の費用で、すぐに入院代は出る、思い切って生活保護を 受けろ」とのことです。  

「昔と違って恥ずかしいことでも何でもない、いままでしっかり?税金を払ってきて いるのだから当然の権利」と言ってくれるのです。「一家の主人が働けなくなり、収入が ないのだから仕方がない」とありがたい忠告です。

生活費として10万円、家賃として3万円くらい(市によって多少違う)、プラス入院費 が保護費として出るようです。

そのために、事を簡単に運ぶ知恵として、「市会議員の後押しがあればイッパツと」とアンコのK氏の意見です。「福祉課の者も、自分の金を払うわけでなし、案外に簡単やて」と。 市役所で用紙だけでももらってみてください。

申し込むと、親類の所、わが家では二人 の弟の元に確認の電話が行くらしいのですが、かまいません。「どうしても面倒みれませ ん」と言ってもらえばいいわけです。

K氏によれば、妻あり子ありは最優先されるとのことです。「依存症は病気」と認識すると恥ずかしさは半減です。ばんばんじいちゃんにも、そこのところをよく判断してもらってください。じいちゃんとこからお金を借りるより、あっさ り生活保護を受けよ!です。  

大阪府断酒会の会報「なにわ」に「三者三様の怒り」という題名の文がありました。 ここの病院長・M氏の寄稿によるものです。要約してみるとこうです。  

アルコール依存症ほど腹の立つ病気はない、とおっしやっています。1、患者、2、家族、3、医 者の三者全員が何らかの形で怒っているというのです。

1、患者は、ちっとも思いどおりにならない自分自身に対して腹を立てています。酒をや めようと思っても誘惑に負けてしまう情けなさにです。だから周りに責任を転化して怒っ ているのです。

2,家族は、酒を飲んで自分たちを困らせるのは、性格の劣る飲んだくれのせいだ、自分 たちは犠牲者だと恨んでいるのです。

3,医者は、患者も家族も医者の言うことをちっとも聞かない、病院に治療にきて医者の 言うことが聞けないのなら勝手にしろ、と腹を立てているというのです。  

「皆それぞれに腹の立つ言い分はあるのだろうが、はっきりしていることは、お互いに 相手の攻撃ばかりしていたのでは、この病気はちっとも治らないし、何よりも自分自身が 深く傷つくのみだということである。

相手の悩みに深い理解と同情を示し、自分の問題には厳しく対処し改めていくことが、 この病気と戦うには非常に大切であろう」 

M院長の文章をしっかりと味わってみてく ださい。院長は依存症の治療では全国で5 指に入る専門医らしいです。特に家族の問題の権威で す。ソフトボールではサウスポー、速球派のピッチャーです。今日の患者と職員の対抗戦 では、23 対0で完封するほどの腕前です。  

でも少し変り者で、おいちゃんなんかが廊下であいさつしても、5 センチほど頭を揺す るだけで、プイと行ってしまう愛想のない先生です。  

10円切手がないので、60円のまま出します。悪しからず。

(この記事はブログの原点になるアルコール依存症からの回復日記である。
昭和61年(1986年)、アルコールの専門病院に入院したわたしが妻に向けて毎日書き綴った手紙で、病院の玄関にある郵便ポストに切手を貼って退院の日まで投函し続けた。)